腸内環境と生活習慣病の関連

腸内環境と生活習慣病の関連

私たちの腸の中は100兆個にも及ぶ腸内細菌がいて、共存しています。その重さは約1~1.5㎏にもなるのです。

これらの細菌は、種類ごとにグループを作っていて、腸の中を顕微鏡でみると「お花畑(フローラ)」のようであることから「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。

腸内細菌はホストである人間にとって益があるかどうかで、善玉菌・悪玉菌と善玉でも悪玉のどちらでもない菌(日和見的な菌)の3種類におおまかに分けられます。おおよそ1000種類と言われる菌の種類は個人差、地域差、食事環境や生活スタイルによっても変わってくるので、まさに十人十色と言えます。そのバランスによって生活習慣病になりやすいかどうかも変わってきます。

腸内環境が体内で生活習慣病にも関連していることが近年の研究で解明されてきました。つまり、炎症性腸疾患、肥満、糖尿病、大腸癌、自閉症、アテローム性動脈硬化症などは、その発症に腸内細菌が関与していることが分かっています。

また健康増進に一役買うと注目されているのが、腸内細菌が食物繊維などを分解して産生する短鎖脂肪酸です。この短鎖脂肪酸にはプロピオン酸,酪酸,吉草酸があり,腸管の各所で産生されています。短鎖脂肪酸ではありませんが、腸管では乳酸やコハク酸といった有機酸も発生し、腸管から吸収されています。1)

 

肥満・糖尿病と腸内細菌

ライフスタイルや食習慣の乱れで特定の腸内細菌が増えるとそれらが毒性物質のアンモニア・ニトロソ化合物・硫化水素・アミン・インドール・2次胆汁酸等や炎症性サイトカインを生み出します。

その大きな原因の一つがが、動物性脂肪の多い食品です。マウスの実験では、動物性脂肪の継続的な摂取は肥満しやすい腸内フローラを作ります。それに善玉菌の発酵力を低下させて、腸管免疫の低下や糖尿病や肥満症などの代謝異常を起こしやすくなります。消化管の炎症やバリア機能障害を引き起こします。そして血中エンドトキシン濃度が上昇し、全身の臓器に慢性の炎症を引き起こし、インスリン抵抗性を高め、糖尿病になりやすくしてしまうのです。

一方で魚油などにふくまれる多価不飽和脂肪酸は、太りにくい腸内フローラをつくることに寄与します。2)4)

 

認知症と腸内細菌

現段階では動物実験上ではありますが、腸内フローラが脳内物質のドーパミンの量を調整していることが分かっています。ドーパミンが少なくなると、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病になる可能性があります。多すぎると統合失調症の原因になります。3)

 

アンチエイジングと腸内細菌

中国での研究では3歳の幼児から100歳以上の老人の腸内フローラを1000人を対象に調べた結果、長寿で健康なの人の腸内フローラは、若い人の腸内フローラと変わらないことが明らかになっています。また健康を維持している集団に見られたのは、腸内フローラの多様性でした。

 

心疾患と腸内細菌

心疾患と腸内細菌の関係の研究では、腸内細菌代謝産物のトリメチルアミン N オキシド(TMAO)の血中濃度が高い人は,心疾患にかかる人が多いということが報告されています。5)このTMAOは動脈硬化を促進する物質です。6)

また心不全の患者さんの便からは病原性の高い腸内細菌が多いという研究結果があり、特に程度の重症な人ほどその傾向が高いということが分かっています。

 

大腸がんと腸内細菌

腸管内の炎症の状況により腸内フローラのバランスを崩し、大腸菌などのある特定の細菌が増殖することで大腸がんの発生に関わり、大腸菌が合成するコリバクチンが腸内の細胞にダメージを与え、そのためリスクが増えることが分かっています。7)

 

腸の細菌フローラをバランスよく健康に保つことで、生活習慣病になるリスクが減り、その他にもアンチエイジングなど様々な良い点があります。

積極的に腸内細菌の良いバランスを保ちましょう。

 

 

 

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<参考>

1)日腎会誌 2017;59(4):562‒567.特集:腸内細菌叢と腎疾患 腸内細菌叢と生活習慣病 Gut microbiota and chronic kidney disease

脇 野 修  吉 藤 歩  伊 藤 裕

https://www.jsn.or.jp/journal/document/59_4/562-567.pdf#search=’%E8%85%B8%E5%86%85%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%A8%E7%94%9F%E6%B4%BB%E7%BF%92%E6%85%A3%E7%97%85′

2)アンチ・エイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌 Vol.14 No.6 総 説 腸脳連関と生活習慣病

Role of gut-brain crosstalk in the molecular pathophysiology of lifestyle-related diseases

益崎 裕章  與那嶺 正人  Jasmine F. Millman  尾形 絵美 山崎  聡 島袋 充生岡本 士毅

https://www.ryudai2nai.com/dai2/wp-content/u

3)乳酸菌B240研究所 健康コラム 腸内フローラ(腸内細菌叢) を整えるのが健康のカギ

腸内フローラってなに?

https://www.otsuka.co.jp/b240/column/column005.html

4)日本生活習慣病予防学会 

腸内環境」を整えアンチエイジング 腸内細菌の多様性が長寿の秘訣

http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2018/009515.php

5)腸内細菌学雑誌 31 巻 2 号 2017  シンポジウム 2-5 腸内細菌と循環器疾患

Gut microbiota and cardiovascular disease

山下智也 神戸大学医学部附属病院循環器内科

https://bifidus-fund.jp/meeting/pdf/21th/sympo2-5.pdf#search=’%E8%85%B8%E5%86%85%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%A8%E5%BF%83%E8%87%93%E7%97%85′

6)同友会 メディカルニュース 2019年9月号 腸内フローラと心疾患の関係

http://www.do-yukai.com/medical/119.html

7)慶応義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点

 腸に住んでいるある平凡な細菌によって大腸がんは引き起こされる 田宮 大雅

http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2012/20130213_02.html