薬膳とは
東洋医学(中医学)を基にした食事の取り方です。
東洋医学は、病気は体のある部分だけの病変ではなく、五臓六腑の全ての機能につながった生命体の病変として捉えます。そして、それぞれ人によって体質が違うので、その人に合ったものを食べることで、体全体から良いバランスを取り戻すのです。
医食同源という言葉もある通り、食で体に入るものは薬と同じという考え方があります。
中国の長い歴史の中で培った知恵が凝縮されている食事スタイルです。
薬膳の考え方
陰陽
自然は常に二つの側面で構成されています。裏と表、寒と暖、昼と夜など、反対の性質の2極のものが対となっています。全ての自然が二つの側面の組み合わせから成り、「陰陽」という世界観をつくりました。陰陽はいつも同じというわけではなく、常に動いています。また、同じ体の中でも腹部は陰で背部が陽、上部の臓器は陽、下部の臓器は陰、血液は陰、気(パワー・エネルギー)は陽など、多方面からの陰陽の区分に分かれます。
この陰陽のバランスが健康を保つためには大切です。環境などで常に陰陽のバランスは変わっていますので、多少バランスが崩れても、自ら回復することができれば健康です。このバランスを自分で立て直すことが出来ない時には、「未病」(発症する前の体調不良の状態)になり、その状態が進むと病気になります。
そのため、状態や病気が陰なのか陽なのかを知り、そのバランスを取り戻す性質をもつ食べ物をとるのが「薬膳」の考え方です。また東洋医学では、漢方薬を用いてバランスを取り戻すのです。
この絵はどこかで見たことのある方も多いのではないでしょうか?
これは、陰陽のバランスを示す絵で常に陽と陰が動いている様子がうかがえます。そして、陽の中にも陰が、陰の中にも陽があり、バランスを取り続けているのです。
五行
陰陽に次ぎ、大切な考え方は「五行」です。五行とは古代中国では万物は五つの要素(木・火・土・金・水)で成り立っているという認識を持っていました。この5つの物質の運動変化により成り立っていて、全てが欠けてはいけないものとされていました。
木:発芽、伸びる、発達するなど「木のような性質のあるもの」を指します。
火:温熱・炎・上昇するなど「火のような性質のあるもの」を指します。
土:万物の成長の源など「大地のような性質のあるもの」を指します。
金:変革・沈む・統合するなどの「金属のような性質のあるもの」を指します。
水:滋養、潤す、流れる、冷たいなどの「水のような性質のあるもの」を指します。
この5つが相生(互いに生み出す)や相克(互いに制御しあう)を行うことで、バランスをとって正常に機能を保つことが出来るのです。
食物の自然属性
四性(熱・温・平・涼・寒)
食材にはそれぞれ体を温める性質を持つものがあれば、体を冷やす性質を持つものもあります。体の冷えた状態に効果のある食べ物が温性、熱性です。逆に体が熱っぽい症状がある時は涼性や寒性です。冷やす性質は陰に属し、温める性質は陽に属します。また、体質によっても選ぶものが変わってきます。平性は温性・冷性のどちらにも属さない、影響を与えない性質です。
例
熱性:くるみ、羊肉、コショウ、唐辛子など
温性:もち米、たまねぎ、ニンジン、えび、鶏肉、牛肉、ヨーグルトなど
平性:米、キャベツ、大豆、さば、タイ、卵、豚肉、牛乳など
涼性:トマト、ほうれんそう、きゅうりなど
寒性:すいか、なす、はまぐり、たこ、かに、塩、みそなど
昇降・収散・潤燥
昇降
昇は気を昇らせ、降は気を降ろす力です。
昇:唐辛子、牛肉、羊肉、ピーマンなど
降:すいか、トマト、なすなど
収散
収は気や汗を体内に収め、散は寒気あるいは病原菌などを外に追い払う力です。
収:柿、レンコン、栗など
散:生姜、ねぎ、ラッキョウなど
潤燥
潤は潤す性質で、燥は体内の余分な水分を除く力です。
潤:ブドウ、ピーナッツ、さば、うなぎなど
燥:唐辛子、わさび、もち米など
体質とその食品のもつ性質に応じて、食品を選びます。例えば、カサカサ肌の人は潤す性質の食材を食べることで肌の回復に役立ちます。またむくみや水太りのように、体内に必要以上の水分を溜めてしまう人は、燥の性質のある食材をとり入れることで、浮腫みの改善に役立ちます。
五味
古代の中国では、味が体に与える影響も考え分類しています。
大きく五つにわけて、「辛・甘・酸・苦・鹹(塩味)」です。その他にも渋味や淡味などもあるのですが、基本はこの五つです。
辛味:辛味は肺に働きかけます。
辛みで発汗させ、気を巡らせる作用があります。「陰虚」の体質の方には合いません。
(食材)生姜・大根・ねぎなど
甘味:甘味は脾(消化器系)に働きかけます。
甘い味で滋養する作用があります。体に熱がこもりやすく、余分な水分が溜まりやすくなります。
(食材)かぼちゃ、さつま芋など
酸味:酸味は肝に働きかけます。
酸っぱい味で気や汗を収める働きや免疫力を上げる働きがあります。酸味を摂りすぎると胃腸の負担になります。
(食材)レモン、酢など
苦味:苦味は心に働きかけます。
苦い味で気を下に降ろす働きや体内の余分な水分を外に出す作用があります。「陰虚」の体質の人には合いません。
(食材)ゴーヤ、ごぼうなど
鹹味(塩味):鹹味は腎に働きかけます。
塩味で堅いものを柔らかくする働きがあります。摂りすぎは腎臓の負担になります。
(食材)塩、昆布など
一つの味だけに偏るのは良くありません。五味のバランスをとりながら、味をつけることが望ましいのです。
薬膳は、その他にも季節、毒性、邪、五臓六腑や、各個人の体質についても考慮しながら、食材や味付け、調理方法を選び、体のバランスを取っていく食事法です。
とても奥の深い食事方法です。
<参考>
東方栄養新書 梁こうせんかく メディカルユーコン
漢方ライフ https://www.kampo-sodan.com/self_check