食物繊維

食物繊維は、一昔前は何も役に立たないカスのように思われていました。しかし1971年にイギリス人のバーキット医師が「食物繊維の少ない食事は、大腸がんなどの腸疾患の発生のリスクを上げる」という仮説のもとに研究を始めたのです。それで食物繊維を多く含む食品が大腸がんなどの腸疾患予防に有益性があることが解かり注目を集めました。それから、その他の研究からも食物繊維は体内で色々な役目を果たしているということがわかってきました。

今では第六の栄養素と呼ばれて、その摂取の重要性が注目されています。

 

食物繊維とは

ヒトの体の中では消化することの出来ない、動植物の食品中の繊維など難消化性の成分のことをいいます。

炭水化物に糖質と食物繊維は分類はされています。分かりやすいのは、お米をイメージしてみてください。精米される前のお米は玄米で、中の白い糖質(デンプン)の周りに茶色い皮(食物繊維)で包まれていますよね。その二つを合わせて炭水化物といいます。その中の白い精白米は、デンプンや糖分を多く含み、体の中でエネルギー源となるものです。周りの茶色い皮は食物繊維やビタミン、ミネラルを多く含んでいます。


食物繊維は体内で消化されることはありません。そのため、ほとんどカロリーにはならないのですが、いくつかの食物繊維は腸内細菌が分解して、カロリーが生じるものもあります。

 

食物繊維の働き

食物繊維の働きは、各種類によっても違います。
おおまかには腸内環境を整える働きと、体内の余分なものを外に出す助けをすること、あと最近の研究では血糖値の急激な上昇を抑えたりコレステロールを下げる働きなどもあります。その他、摂りすぎた塩分を体外に出して、血圧の上昇を抑えます。あと、食物繊維を多く含む食品は満腹感が得やすく食べすぎを抑える効果もあり、
肥満予防にも効果があります。

 

食物繊維の種類

食物繊維にはいくつか種類があり、それぞれ体内で違う働き方をしています。大きく分けて不溶性食物繊維水溶性食物繊維の2つに分かれます。

不溶性食物繊維水に溶けない繊維で、いわゆるゴボウやさつま芋などの目で見てわかる繊維を指します。ずっと噛んでいると口に残る繊維です。

水溶性食物繊維水に溶ける繊維で、目では繊維は確認できません。海藻や寒天やこんにゃく、果物などに含まれています。水溶性食物繊維は、寒天がゼリー状になるように保水効果が高いのが特徴です。

 

不溶性食物繊維

セルロース

植物の細胞壁の部分の主成分で、ほとんどの植物に含まれています。特に小麦のふすまや米ぬかなど、精製すると取り除かれてしまう皮の部分です。とても繊維質らしい繊維で、噛んでいて口の中に残る部分です。私たち人間の体内では消化できず、腸で便のカサを増やして便通を促します。体内で有害物質を吸着して外に出す、デトックスの役割も果たします。また善玉菌をふやす助けをします。セルロースを多く含む食品は、噛み応えがあるので、よく噛むことで脳を刺激したり、唾液を出して消化を助けたり満腹感を得られやすい利点があります。

一方でセルロースのとりすぎは、便の水分を吸収しすぎて便秘になることもあります。また胃腸の弱い方は刺激が強すぎて、下痢になる場合があります。

多く含む食品:全粒粉小麦、ふすま、玄米、米ぬか、トウモロコシの皮、ごぼう、パイナップルなど

 

セミヘルロース

セルロースとペクチン以外の植物の細胞壁の成分です。ふすまやぬかなど穀類のカラの部分に多く含まれています。セルロース同様に有害物質の排出を早めたり便のカサを増やし便通を整える、腸内細菌に良い環境をつくるなどの作用があります。また満腹感が得やすいなど食べすぎを抑える働きもあります。米ぬかのヘミセルロースから作られたアラビノキシラン誘導体(MGN-3)は、免疫のナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化するのではないかという研究が進んでいます。今後の研究成果に期待が持てます。

多く含む食品:全粒粉小麦、玄米、そば、トウモロコシなど

 

キチン・キトサン

キチン・キトサンはカニやエビなどの甲殻類の殻に含まれる食物繊維です。「キチン」は水に溶けにくく、化学的に溶けやすくしたのが「キトサン」で二つセットでよばれています。私たち人間の体内では消化されません。体内ではコレステロールの排泄を助けたり、免疫の一種のマクロファージを活性化したり、腸内環境を整えて善玉菌が増えるようにするなど有益な作用があります。

多く含む食品:カニ、エビ、しゃこ、いかの軟骨など

 

リグニン

植物の細胞壁の成分のひとつです。細胞と細胞をくっつける作用があります。胆汁酸を吸着して体外に出す働きがあるので、コレステロールが必要以上に増えないように調整する作用があります。

多く含む食品:いちごやラズベリーの種、カカオ、切り干し大根、梨など

 

水溶性食物繊維

ペクチン

果物に多く含まれています。細胞と細胞をつなぐ役目をしています。未熟な果物のペクチンは不溶性ですが、成熟するにつれて水溶性に変化します。果物のジャムは、ペクチンの作用を利用してゼリー化しています。コレステロールの上昇を抑えたり、整腸作用があります。またナトリウムを外に出す作用があります。

多く含む食品:果物

 

グルコマンナン

植物の細胞膜や細胞の中に含まれる粘質多糖類で、グルコマンナンはこんにゃく芋の主成分です。こんにゃくを作る時には、石灰を入れて凝固させるとゼリー状に固まります。コレステロールの吸収を阻害して動脈硬化を防ぐ助けをします。食後の血糖値の急上昇を抑えたり、整腸作用があり、便通を整えます。善玉菌が増えやすい腸内環境にします。

 

アルギン酸

アルギン酸は昆布やワカメに含まれるヌルヌル成分です。増粘剤や安定剤などとしても使われています。アルギン酸カリウムは胃の中で胃酸により、アルギン酸とカリウムに分かれます。その後に、腸でアルギン酸はナトリウムにくっついて、アルギン酸ナトリウムとなります。つまり体内の塩分を外に出す作用があります。コレステロールも包み込んで体外に排出する作用もあるので、高血圧やコレステロールを正常に保つ上で嬉しい成分です。

 

アガロース・アガロペクチン

テングサ、おごのりに含まれていて、寒天をつくる成分です。コレステロールの吸収を抑えたり、急激な血糖値の上昇を抑えます。また、満腹感も生まれやすくダイエットにも使われることの多い成分です。また腸内環境を整えるとともに、便に適度な水分を保ち快便へと導くのです。

 

カラギーナン

カラギーナンはアイリッシュモスという海藻に含まれています。高齢者や子供用のとろみ調整剤や増粘剤に使われています。他の水溶性食物繊維同様にコレステロールの上昇の抑制、血糖値の上がりすぎを防いだり、腸の環境を整える働きがあります。

 

フコイダン

フコイダンは海藻のヌルヌル部分の成分のひとつです。フコイダンは胃の中でピロリ菌が胃壁に付くのを防ぐ働きがあり、胃の病気の予防につながります。肝細胞増殖を助ける働きがあります。コレステロールの上昇を防ぐ働きもしています。昆布やひじき、わかめ、もずくなどに含まれています。

 

ムチン

ムチンはいわゆるヌルヌル系の野菜に含まれています。多糖類のがラクタンやマンナンとタンパク質が結合したものです。ムチンにはタンパク質分解酵素が含まれていて、生で食べるとタンパク質の分解に役立ちます。胃壁を保護する作用もあります。

多く含む食品:オクラ、モロヘイヤ、なめこ、山芋、里芋、つるむらさきなど

 

β-グルカン

β-グルカンはキノコ類や大麦(もち麦も含む)、オーツ麦(オートミール)などに含まれています。血糖値の急激な上昇を抑えたり、コレステロールの吸収を抑えます。ナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫も活性化させます。それと、ガンに対する作用の研究が進められていて、今後の結果に期待がもてます。

 

イヌリン

菊芋やゴボウなどに含まれる多糖類のひとつで人の体内では消化吸収されず、腸内細菌で分解されるものです。最近では、食前に摂ることで食後血糖値上昇の抑制になるといわれています。

 

リグナン

リグナンは様々な植物の茎や種に含まれていますが、ゴマに特に多く含まれています。ゴマに含まれるリグナン類は、セサミン、セサモール、セサミノール、セサモリノール、セサモリン、ピノレジノールなどがあります。それをまとめてゴマリグナンといいます。特に有名なのがセサミンです。抗酸化作用が強く、活性酸素除去に役立ちます。そのほか、肝機能を強化するなどの作用もあります。

 

ポリデキストロース

ポリデキストロースは、人工的に化学合成して作られた水溶性食物繊維です。ブドウ糖にソルビトールを混ぜてクエン酸を加えて加熱したものです。ポリでキストロースは無味無臭です。菓子やジュースに使われています。

 

難消化性デキストリン

難消化性デキストリンは、デンプンをブドウ糖に分解する途中の物質です。天然にも少量は存在しますが、最近多く流通しているのは工業生産で、トウモロコシ澱粉から作られたものです。最近では、市販のジュースやお茶などに「中性脂肪を抑える」「食後血糖値の上昇を抑える」として入っていることの多い成分です。他の食物繊維と同様に食前に摂ることで、糖質の吸収を抑制するのです。ヒトの代謝では消化できないのですが、腸内細菌が分解することによって短鎖脂肪酸に変換されて吸収するので1kcal/gです。

 

食物繊維の必要量

日本人の現在の摂取量の平均は14.4.g(平成30年国民健康・栄養調査)で、目標量には達していない状況が続いています。

目標値 成人男性21g(65歳以上は20g

    成人女性18g(65歳以上は17g

※腸の疾患がある人は主治医のアドバイスを確認しましょう。

 

食物繊維の過剰症

食物繊維を摂りすぎた場合、腹部膨満感便秘、腸粘膜損傷、過刺激による下痢、ミネラルの吸収阻害があります。特に不溶性の食物繊維は、便を固くして便秘を悪化させることがありますので、便秘の方は水溶性の食物繊維を試した方が良いかもしれません。

 

食物繊維の欠乏症

食物繊維が不足すると、生活習慣病になりやすくなったり、腸の環境が乱れやすくなります。便秘、腸憩室炎、大腸がんなどのリスクが高くなります

 

食物繊維を効果的にとるために

・野菜に多く食物繊維は含まれています。野菜をなるべく多く食べましょう。生野菜ばかりではなく加熱したものもとり入れると、量を多く摂りやすくなります。

キノコ類、海藻類、豆類もなるべく食べましょう。

・穀類は精製していないものが、多く食物繊維を含んでいます。

・おやつを食べるなら、食物繊維も含まれるナッツ類やフルーツ、いも類などがお勧めです。

・切り干し大根などの乾物を食事にとり入れることで、食物繊維を効率的に摂ることができます。

 

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<参考>

厚生労働省 平成30年 国民健康栄養調査 概要 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635990.pdf#search=’%E5%9B%BD%E6%B0%91%E6%A0%84%E9%A4%8A%E8%AA%BF%E6%9F%BB’

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所  健康食品の安全性・有効性情報「食物繊維」 https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail583lite.html

消費者庁 難消化性糖質及び食物繊維のエネルギー換算係数の見直し等に関する調査・検証事業報告書 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2019/pdf/food_labeling_cms206_200424_02-2.pdf#search=’%E9%9B%A3%E6%B6%88%E5%8C%96%E6%80%A7%E3%83%87%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%87%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AF%E5%90%8C%E3%81%98%EF%BC%9F’

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